世界的建築家、安藤忠雄氏の書籍の紹介。
これは、数年前に日経に連日執筆された「私の履歴書」をまとめたもので、幼少期から現在に至るまでのエピソードがギュッと凝縮されていて、安藤氏を初めて知るにはちょうどいい内容だ。
途中、フルカラーで代表的建築物がいくつか紹介されていて、写真を眺めているだけでも楽しい。
安藤氏に対しては、以前なにかで聞いた「建築は戦いである」という氏の言葉がずっと頭に残っていたことや、世界をまたにかけて活躍する姿、並々ならぬエネルギーに、一体どんな人物でどんな人生を送ってきたのか非常に興味があった。
実は、僕が20代の頃、建築家に憧れた時期があったことも興味をそそられた理由だ。
やはりこの人、思った通りめっちゃカッコいい仕事人だった。
言うなれば「建築界の不撓不屈のボクサー」。(高校生の頃、実際にプロボクサーとしてデビューしていたというから驚き)
コンペでは、若いときは連戦連敗。未だに負けることもあるという。例え当選しても、予算や法律、地域住民の”壁”が立ちはだかる。
でも決してあきらめない。
コンペを勝ち取った末のヴェネチアの歴史的美術館の改造、反対する地域住民100人を4年余りかけて説得した表参道ヒルズの再開発などは、まさに氏の仕事に対する執念そのもの。
氏曰く「連戦連敗でも思いもよらない形で夢が叶うこともあるから、生きることは面白い」。
経験や学歴がないハンデさえ、不屈の精神で乗り越える。
大学生が4年かけて勉強する教科書は1年で読破、建築士1級は一発合格。感性を研ぎ澄ますため、若い時分から世界各国を1人建築行脚。
氏曰く「一人旅は逃げることができない。毎日が不安と緊張の連続。頼りになるのは自分だけ。しかしそれは人生も同じ」。
入所間もない若手スタッフを「1人で全部やってみろ」と海外へ突き放すこともあるとか。
そして終いには、東大やハーバード大の客員教授に就任してしまうのだから、凄いとしか言いようがない。
国内外の文化人や大物企業経営者らとの交流話も優雅で豪快。
「光の協会」が完成するまでのエピソードも興味深いが、あのU2のボーカリスト、ボノが見学に来たとは!今でも交流があるという。
最後は、世界を相手に戦ってきた安藤氏ならではのメッセージで締めくくられている。
「飼いならされた子供たちに野性を取り戻させたい。野性を残した子供たちが知性を身につけ、自らの意志で世界を知り、学べば日本を生まれ変わらせる可能性をもつ人材が育つだろう。この国が再び生き残るには、自立した個人という人格をもつ人材の育成が急務である」。
何度倒されても立ち上がるボクサーのように、何度失敗しても決してあきらめず自分の意志を貫き通し、夢を実現させる。
そんな生き方を貫いてきた安藤氏は、文句なくカッコいい。
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鈴木篤 (火曜日, 21 1月 2014 17:22)
いつも楽しく拝見させていただいております。
安藤忠雄氏は私も大好きな建築家です。
彼のデビュー作は「住吉の長屋」と言われておりますが、
世に出て以来、いつになっても新しい彼の作風と、その生き方は実にストイック。
ボクサーを目指した時期があるのも頷けます。
なんでもそうですが、生き様と仕事の質は同義語なのかもしれませんね。
tomono (木曜日, 23 1月 2014 09:07)
鈴木さん、ありがとうございます。恐縮です。
安藤氏が手がける建築物は、どれも情熱とアイデア、そして挑戦の結晶ですよね。確かに、同氏の生き様がビンビン伝わってきます。(成果が形として表れる仕事は羨ましい…)
私もそんな仕事をしてみたいものです。