先日テレビで、プロテニスプレイヤー錦織圭選手の快進撃の秘密や裏側について、コーチのマイケル・チャンが語るという特集を観た。
錦織が自分のテニスに自信を失いかけていた頃、自らチャンにアドバイスを求めたそうだ。
同じ東洋人の血が流れていて、同じように小柄であったチャンに、自分自身が重なったのだろう。
まずチャンは、錦織の弱い精神面を鍛えることに着手する。
「もっと自分に自信をもて」「体の小ささは関係ない」と、何かにつけ励ます。
全米オープンの直前、足のケガの術後の経過がよくないことを理由に出場を懸念する錦織に、チャンは「もう終わったこと。足のケガは理由にならない」と怒ったという。
戦術も変わる。
錦織はコートのラインより後ろでプレイするスタイルが故に、どうしても相手に左右揺さぶられがちだった。
そこでチャンは、ライン際まで出てプレイすることを勧める。
そうすることで、揺さぶられる範囲が狭くなり、また早く打ち返すことで相手のリズムを狂わせられる。なるほど、合理的だ。
技術面でチャンが重視したのは、意外にも基本の徹底。
筋トレに要する時間は、今までの倍になったという。
基本練習は飽きてしまいがちで、今まで長く続かなかったという錦織を、鍛えられた精神面が支える。そして地道なトレーニングが前述の戦術を可能にする。
まさに心・技・体のシナジー効果だ。
そして、全米オープン。
決勝では残念ながら敗れたが、快進撃を続けるさなかで自然に出たあの言葉。
「勝てない相手も、もういないと思う」
こんなに自信に満ちた言葉は聞いたことがない。日本人として誇りに思った。
ただ課題もある。
ツアーファイナルでのジョコビッチ戦。記憶に新しい人も多いだろう。
調子を取り戻して第二セットを奪い、1-1とした後の第三セット。
全米オープンで決めたダウンザラインが決まらなかった。明らかに無理して狙いにいったことが、素人目にも分かった。
そして、この試合を落とす。
チャンは、あの場面は決めにいくところではなかったと言う。じっと我慢して相手のミスを誘う場面だったのだ。
錦織もそのときのプレイを「自分自身を信じきることができなかった」と振り返る。
世界のトッププレイヤーに必要なものは、技術面ではなくむしろ精神面だとチャンは言う。
もうそこはその世界に行った人間でしか分からない、未知なる領域だ。
何かと日本人が弱いと指摘される精神面だが、いかに重要であるかということを思い知らされた。
錦織の快進撃の裏には、彼の精神面を変えたマイケル・チャンという優れたコーチの存在があった。
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