よく「職務給」や「役割給」がいいと言われる。
書店に行けばその類の書籍が並び、うさん臭い?自称賃金コンサルタントがその手のセミナーをやっている。
果たして本当にそうなのだろうか?
私は、大企業ならともかく、両者とも中小企業には全く向かないナンセンスな賃金だと思っている。
そもそも職務給というのは、その名の通り職務(仕事)で社員を格付け・処遇する考え方だ。
中小企業は少数精鋭で仕事を回しているから、1人でいろんな仕事を掛け持ちしなければならない。仕事で社員を格付けすることなど到底困難だ。
仕事の中身だって絶えず変化している。職務調査・分析だって毎年やらなければならない。
ただ、職務給は仕事が変わらない限り昇格しないわけで、人件費を抑制したい企業には向いているかもしれない。
導入したければ、管理職だけに適用するとか、他の賃金と併用して適用するとかの工夫が必要だ。
しかしいずれにせよ、その反動(社員のモチベーションダウン)には覚悟が必要だ。
そもそも職務給は、第二次大戦後に「同一労働同一賃金」の考え方が強いアメリカ(GHQ)から半ば無理やり日本に輸入されたものだ。
確かその時も、結局あまり続かなかったと思う。やはり、人を育てることを前提としている日本企業には使いづらいのだ。(このあたりの賃金史については、「賃金とは何か」に紹介されている。かなり興味深い参考になる本だ)
では、役割や責任で社員を格付け処遇する役割給はどうだろう。
細かい職務調査・分析をしなくてよく、役割という概念を考えれば、職務給よりは運用しやすいと言えるだろう。
ただプレイングマネージャー然り、中小企業は社員1人1人が何役もこなさなくてはならない。やはり役割給も格付けが困難だ。
職務給にしても役割給にしても、今後人手不足が顕在化していく中で、益々社員1人1人が担う仕事や役割が増えたり、変化していくことが予想される。
そのような意味でも、益々使いづらい賃金になっていくと思う。
ではどうすればよいか?どんな賃金がいいか?
例として3つほどあげたい。
①都度「手当」で払う
例えば、何か特別重要な仕事を担う社員に、その都度職務手当をつける。部下を持つ社員に「リーダー手当」という役割手当をつける。部下がいなくなれば、当然手当はなくなる。
実に単純明快で、納得性がある。企業独自の、職場独自のいろんな手当を考えるのも面白いと思う。
更に、格付けと手当は切り離して考えることも中小には大切だ。どの企業もどの制度も、なぜかこの発想が無い。
②職務給でなく「職種給」にする
「職種給」というのは私が勝手に作った概念だが、手法としては既によくあり、職種によって賃金テーブルなど賃金に差を設ける方法だ。
基準を細かい職務でなく、大きく職種として捉えるということだ。
ただ賃金格差が大きければ大きいほど、セクショナリズムを生む危険性がある。
③具体化しない
職務・役割・能力・成果…賃金や格付けを決定する要素はいろいろあるが、結局、中小企業はその場その場で総合的に考え決定していくしかない。それが現実だ。
だから執拗に何かにこだわるのではなく、ちょっとずるいが、いかようにも企業の裁量が効く「玉虫色」の賃金にしておくのがいい。
ただ、社員からしてみれば分かりにくいかもしれない。
賃金の考え方はいろいろで、何が正解・不正解というものは特にないと思う。どんな賃金にせよ、コインの表裏の関係のように、何かしらメリット・デメリットがある。
だから、明日になれば考えが変わっているかもしれない(笑)
ただ言えることは、決して机上論ではなく、現場主義で本音で柔軟に考えないと、結局は使えない賃金になってしまうということ。
そのような意味で、職務給や役割給は、中小企業には向いていないと言わざるを得ない。
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