お勧めの本の紹介。
実話を元にした物語仕立てのマネジメント書である。原作は1991年初版のロングセラー作品で、この本はその改訂版になる。
主人公である沢井は、役員昇格を期待していた矢先、万年赤字の子会社に社長として出向命令を受ける。しかも2年で黒字化が条件だ。
この本は、そんな沢井のマネジメント奮闘記だ。
ストーリーがリアルなので、つい感情移入してしまった。
経営者として、リーダーとして、人を動かすことの大変さや目標設定の大切さなどが、ジワジワと体内に蓄積されていくような感じだった。
よくあるHow To本では、この感覚は味わえない。
沢井の哲学は「人間主義」。
そんな沢井が最初にとった行動は、毎日のように製造現場を自分の足で巡回し、個々の社員とコミュニケーションをとるという、地味で泥臭いことだった。でもそれが少しずつ功を奏していく。
社員との信頼関係が築かれていく中で、次に手を打ったのは黒字化に向けた目標設定だった。朝礼や泊まり込みの社員研修などで、全社員の意識を根気強く目標達成に向けさせていった。
沢井は、そのための行動指針を「オレがやる、協力する、明るくする」という簡単なメッセージに込め、発信し続けた。
会社メッセージは、誰にでも分かる単純明快さと、常に発信し続けることが肝だ。
赴任当時、シラケきって希望などまるでなかった社員たちが、次第に沢井の人柄や情熱、姿勢といったものに共感していき、最後には自ら協力するようになっていった。
そしてとうとう赴任9ヵ月目にして、黒字転換するのであった。
終盤で知ることになるのだが、意外にもこの本、全編を通じてMBOについて書かれたものだった。
MBOとは、かの経営の神様ドラッカーが提唱した経営手法の1つで、「目標管理制度」と訳される(この訳はいろんな意味で誤訳だと思う)。
よくあるMBO関連の書籍には、例えば「個人目標のベクトルを会社や部署目標のそれに合わせる必要がある」旨書かれている。
それはその通りなのだが、この本には個人目標に関する具体的なことなど一切出てこない。強いて言えば、前述の「オレがやる、協力する、明るくする」くらいだ(笑)(これに関してもとても目標とは言えないが)
でも後で全編を振り返ると「なるほど、これがMBOなのか」と”ジワジワ”理解・納得できた。
最も大切なのは、全社員の意識をいかに会社目標に向かせるかということなのだ。中途半端な個人目標などむしろない方が良い。
リアルなMBOがこの本にはあった。
時代設定がいささか古く、さほど大きなトラブルもなく展開していくストーリーに若干違和感も感じたが、人の気持ちというものはいつの時代も変わらない。
そんな人の気持ちを動かすには、さまざまなマネジメント手法を駆使し、順序立て地道にコツコツやるしかないのだ。
そんなことを教えてくれる、非常にリアルな人的マネジメント書だ。
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