厚労省が全国の高校に、教師向けのワークルールの授業案を送付したという。
このモデル授業案を見ると、ワークショップなどを交え学生に考えさせながら労働法を身に付けてもらうよう、いろいろと工夫しているのが分かる。
長時間労働や残業代問題の渦中にいる教師が、一体どこまで本気になれるのかは別として、最近、高校生や大学生らに授業で労働法を教える動きが増えているのは確かだ。
若いうちから労働法を知っておくことは、基本的に良いことだと思う。
いずれ社会に出て働くことになるのだから、決して他人事ではないし、その知識がいつか自分の身を守ることになるかもしれない。
一方、権利意識ばかり強まることへの懸念もある。
一昨年、労働局主催の学生向けの労働法セミナー講師を依頼されたのだが、その時僕は「現実や良識も伝えよう」というコンセプトの下、なるべく本音を交えて話をした。(そのような話ができるのが我々社労士だと思うしね)
例えば有休。
確かに労働者にとって強い権利ではあるが、だからと言って、例えば退職前に溜まった有休を一方的に請求するような行為はいかがなものだろう。
権利を行使する前にやるべき義務を果たすとか、職場への配慮をするとかといった良識について考えさせることも大切だと思う。
今は何かにつけてすぐに「ブラック企業」と言う風潮がある。(僕はこの風潮が嫌いだ)
労働法に少しでも抵触した会社をブラックというのなら、世の中の会社はほとんど黒く染まることになる。「ホワイト企業」など恐らく皆無だろう。
それくらい、今の労働法や労働判例は中小企業にとって厳しいということ。しかも7割の中小企業は赤字だ。そういった現実も教えた方がよいと思う。(もちろん、だからと言って労働法を無視していいということにはならないが)
また、ブラック企業に気をつけようというのなら、同時に「ブラック社員」にならないよう注意すべきと教える必要がある。
同じようことが「キャリア教育」にも言えるのではないだろうか。
最近の若者は、会社選びで「自己が成長できる会社」を優先する傾向があるが、背景には(過度な)キャリア教育があるのではないかと思う。
成長は重要だが、理想ばかり教えるから現実とのギャップに悩み、結果早期退職につながっているのではないだろうか。
若いうちからワークルールやキャリアについて学ぶことは大切だと思うが、教える側は現実や良識も一緒に教えないと、結果、不幸にさせることになるのではないだろうか。
そうであれば、教える側の責任は大きい。