最近は賃金制度の作成依頼が多い。
その際、歩合給を導入するケースがある。
歩合給は企業側にとってメリットがある。
例えば、賃金と企業業績を連動させたり、残業単価(残業代)を抑制することができる。
歩合給は所定労働時間でなく総労働時間で除して時間単価を出し、更に割増率も25%でいい。
例えば給与が30万円、残業が30時間、月所定労働時間が170時間の場合の残業代を考えてみよう。
・通常の場合…約66,000円
・30万円のうち5万円が歩合給の場合…約57,000円
・30万円全額歩合給の場合…11,250円!
(30万円÷200時間)×25%×30時間
と、なんと最大で5万円以上の差が出るのだ。
当然ながら注意点もある。
歩合給を設定する場合は、労基法上、時間当たりの最低保障をするよう義務付けられている。(だから全額歩合給でもOK)
目安は平均賃金の6割だが、トラックドライバーなどは通達で「通常の賃金」の6割となっている。
個人単位でなく複数人単位で歩合給を算出・支給する場合もあるが、通達によると、例えば各自の労働時間などで金額を案分しないと、労基法上の歩合給として認められない可能性もある。
歩合給に割増賃金を含ませる場合も要注意。
本書では、関連する判例をいくつも取り上げていて参考になる。
高知県観光事件では「①時間外・深夜労働を行った場合、歩合給(賃金額)が増加すること ②通常の賃金の部分と割増賃金に当たる部分を判別できること」の2点が要件として示され、会社側が負けている。
②はおなじみのフレーズだが、問題は①だ。フルコミッション制の保険外交員などに見られる「歩合給の○○%を割増賃金として支給する」という払い方は①を満たさず、今後認められにくくなる可能性がある。
アクティリンク事件では「実質的に見て、当該手当(営業手当)が時間外労働の対価としての性格を有していること」という要件が示され、やはり会社の主張は認められなかった。
歩合給は歩合給と割り切るべきなのだ。欲をかいちゃいかん。
三和交通事件では、歩合給や足切りなど巧妙な仕組みによって、実質的に時間外割増賃金の影響をゼロにする賃金制度が認められなかった。
運送業などでよく見られる、歩合計算で給与総額を決めておき、それを基本給や諸手当、時間外手当などに割り振るやり方は、やはり認められないのだろう。
ちなみに僕は、あまりにもリスクが大きいから、歩合給に限らず基本給や諸手当に割増賃金を含むような設計は一切やらない。(やむなく固定残業代を導入する場合はあるが)
また賃金制度を設計する上で、歩合給(交換条件付きインセンティブ)が人の心理に及ぼす影響も無視できない。
歩合給は動機づけ(本書の言葉を借りれば「ルール支配行動」)を引き起こすというメリットがある。それには、ルールがシンプルであること、短期に(例えば日々)その結果が分かることが重要だ。
一方で、視野を狭くさせ成果を下げたり、内発的動機づけを失わせることも実験で分かっている。特にクリエイティブな仕事ほどその傾向がある。(過去のブログ「モチベーション3.0」参照)
この点は本書ではあまり触れていないが、要注意だ。
生産性が求められ、また個人の副業が増えていく中、歩合給制を導入しようとするケースは増えていくかもしれない。
ただ歩合給は、前述のとおり法的運用も人の心理に与える影響も単純でない。その導入には慎重さが求められる。