AI時代の働き方と法

先日、静岡大学の学生と話す機会があった。

労働法の授業では、本書を題材にしたワークショップを行ったという。

筆者の大内伸哉氏は、労働法学者の重鎮。法学者っぽくない?歯に衣着せぬ意見や考え方が異端児っぽくて面白く、実は同氏が連載している業界誌やブログをよく拝見している。

 

AIなどの技術が発達し第4次産業革命が進展していく中で、産業構造が変化し、仕事も劇的に変化していくと予測される。働き方や労働法はどうなっていくのか。

非常に興味深いテーマであり、実務に携わる者として、このような未来予想図なり大局観をもっておくことは重要だ。

ということで早速読んでみた。

 

 

これからは仕事や事業(或いは企業)のサイクルが短くなり、それまで培ったスキルやノウハウは早く陳腐化していく。

そんな中、企業は必要な人材を育てるよりも外部から調達するようになる。そうなると、正社員という存在価値(意義)はどんどんなくなっていく。

 

ここで大切になるのが、労働市場政策としての「雇用の流動化」や「職業訓練」、そして「職務基準」だ。

雇用の流動化については、日本では厳しい解雇制限が立ちはだかる。大内氏は、解雇の金銭的解決制度を推奨しているが、解雇規制が今のまま続くようであれば、企業の柔軟な事業活動に支障をきたし、日本は世界から遅れをとっていくことも考えられる。

また正社員が不要になってくると、企業は職務限定採用や契約社員・派遣社員等の非正規の活用を進めることになり、整理解雇や正規と非正規の格差問題がますます増える。

 

成長分野で活躍できる人材を育てるための職業訓練も重要な課題だ。

今ある失業者向けの公的訓練は、せっかく受講しても多くが全く関係のない職に転職しているという話をよく聞く。IT人材を育てる訓練も盛り込み、本当に必要な人が受講し転職に活かせる工夫が必要だと思う。

指導のためのヒトやノウハウも不足するだろうから、民間企業への委託も必要だろう。もっと言えば、学校の教育カリキュラムから見直す必要がある。

 

職務基準については、いわゆる「同一労働同一賃金」に通じる課題だ。玉虫色の運用が大好きな日本人にとっては、基準を職能から職務へ切り替えるのはハードルが高い。

労契法やパートタイム労働法など法律によって外堀から攻めるより、外部人材や外国人労働者の活用促進といった内堀からの方が、本当の意味での意識改革が進むのではないだろうか。

 

今後、副業・起業などでクラウドワーカーが増え、知的創造的な仕事が求められていく中、今の労基法の労働時間規制は時代遅れになっていく。

大内氏は、ホワイトカラーエグゼンプションを推奨しているが、現在の労基法案は、あまりにも現実離れしていて何ら希望の光が見えない。

ここは、もう少し突っ込んだ同氏の見解を聴きたいところだ。

 

「キャリア権」という権利・概念があることを初めて知った。

本書が指摘するように、これからは個人がもっと自律していく必要があり、また労働法や労働市場政策の理念は、雇用の安定からキャリアの安定へ移っていくべきなのかもしれない。

 

本書では、労働法の歴史について細かく触れられている。

最初は正直退屈しながら読んでいたが(笑)、労働法の歴史には、労働者保護の面だけでなく「経済的合理性」の面もあったというのは非常に印象深かった。

労働法は、労働者保護だけではなく、経済発展のために資するものでもあることを忘れてはいけない。

 

そして、未来の働き方・労働法はどうなるのか?

定型業務は専らAIやロボットが担い、能力の乏しい人間は全く働かない(働けない)、或いはAIやロボットの補助をする。昨日までの雇用エリートが、今日から社会的弱者に転落するかもしれない。弱者のセーフティーネットやベーシックインカムが必要になる。

一方、有能な人間は自ら起業したり、知的創造的な仕事を生み出していく。人間と働き方が二極化していく。国が存続するためには、労働所得でなく一部の富裕層の資本所得に求めるしかない。

そして、そのような「脱労働時代」に突入すれば、労働法はその役目を終えることになる。

 

 

まさか最後に労働法が終焉してしまうとは、なかなか衝撃的(笑)

果たして、どこまで本当にそうなるのか、本当にそんなSF映画のような世界がやって来るのか、神のみぞ知るといったところだが、少なくとも労働法の在り方は時代と共に変わっていく(変えていく)べきなんだろう。政府や世論は後手後手だ。

 

本書は、関連する労働法について随所に触れられていて、歴史や社会的課題を背景に体系的に押さえることができ、そのような意味でも実務者には有益だと思う。

またキャリア権にみるように、単に法律論だけにとどまらいところも本書の価値がある。自分はこれからどう働くべきなのか・どう生きるべきなのか、思わず考えさせられる。どうにもできないことも多いけど、結局最後に決めるのは自分自身だ。本書が、大学の講義で選ばれる理由が分かる気がした。

 

脱労働時代に向かう中で、今の若者は将来をどう見据えているのか?次回、その静大生に会ったら是非また聴いてみたい。


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