社員第一主義のいい会社~天彦産業

先日、(株)天彦産業 代表取締役、樋口友夫氏の講演を聴きに行った。

同社は、ノコギリ刃などの特殊鋼等の販売加工をしている、創業140年という歴史ある中小企業だ。本社は大阪にあり、海外にも拠点がある。

 

社員第一主義経営で、ESが高く業績も伸びている「いい会社」で、坂本光司先生の著書「日本で一番大切にしたい会社」でも紹介されている。

特にダイバーシティ、ワークライフバランスに係る数々の賞を受賞していて、安倍首相も5年ほど前に視察に訪れたほどだ。

 

 

樋口氏は関西出身者らしく、時折笑いも交えながら、時には厳しい口調で熱弁された。そのときの内容を箇条書きで記したい。

 

・経営の”軸”は、①自分がやられて嫌なことは人にはしない ②人格を否定しないの2つ。これらは、幼少期に出来の良い兄らと比較されたときの辛い経験からきている。

・計理念は、①社員第一主義(社員が幸福であって初めて顧客につくそうという気持ちになる) ②3H(自らの幸福・家族の幸福・会社の幸福)を高める、の2つ。これらができれば、真の顧客幸福につながる。ESを考えるのは会社や経営者でよく、社員はCSや自分の幸せを考えればよい。幸せになるには目標が必要で、それには家族の協力が必要になる。

・多くの中小企業は、部署はせいぜい4つくらいしかない。そんな少ない業務だけで、社員の適性や長所が本当に分かるのだろうか?「あいつは仕事ができない」とか「能力がない」とかレッテルを貼るのはおかしい。そこで、さまざまな委員会を作った。社員に自主的に運営させることで、社員の長所が見えてくる。最初は、委員会はトップダウンだった。社員の不満を聞き、それ以降は資金は出すが一切口を出していない。

・月間と年間で表彰制度がある。推薦や投票で選ぶが、営業成績よりも委員会活動の方が評価が高い。お世話になった関係者(個人)も社員が選び、感謝状を贈っている。例えば、親切な対応をしてくれたJTBの窓口担当者を表彰したこともあった。

・利益が出たら、①半分は内部留保、半分は株主・役員・社員において一定割合で分ける(と言っても役員は少ない) ②目標を達成したら全社員(+家族)で海外研修旅行に行く、という2つの成果配分制度がある。過去には、海外研修旅行を新婚旅行代わりにした強者(変わり者?)もいた。

・業績が悪く、賞与を出すか出すまいか、かなり悩んだ時があった。社員のことを思い、出すことを決意し社員へ伝えると、その後「会社が大変な時ですので…」と断りに来た女性社員がいた。その思いに、思わず涙がこぼれた。

・3年後、そのときの賞与未支給に対する「借金返済」として、「奥さんボーナス」「お母さんボーナス」と称して5万円を手紙と一緒に社員へ渡した。そうすると、たくさんの感謝状が届いた。

・賞与は手渡し。最近の男性は、威厳やプライドが無くなってしまったからそうしている。その際、本人と奥さん宛に手紙を書く。貢献したことや叱咤激励を本音で具体的に書く。会社から期待されていることを感じさせるのは経営者の役割。

・休みは年間127日。それ以外に、メモリアル休暇(年12日)やリフレッシュ休暇もある。今年の有休消化率目標は75%だが、いずれ100%を目指す。

・子供の卒業式に休みが取れない社員がいることを知ったとき、その上司を激怒した。それ以降、子の入学式・卒業式・運動会・参観日・介護等を優先させ、強制的に有休で休ませるようにした。そうすると、休み明けの社員の表情が、上司も分かるくらい明らかに変わった。それがやがて会社の風土になっていった。だから今は強制取得はやめた。

・制度の前に風土が大切。それができず制度ばかり導入しても、社員は権利意識ばかり高まる。働き方改革関連法は会社にとって迷惑なものばかりだから、なおさら大切。モチベーションが上がる残業はOK。

・休日を増やすことに最初は不安だったが、休日を取るために仕事に対して自主的になったことで、むしろ業績がアップした。

・病気を理由として有休を取らなくてもいいように、全社員のがん保険加入・全女性社員の乳がん検診・35歳以上の人間ドック等を会社が負担している。数年前、社長が検診で脳の血管手術をしたとき以降、そうしている。

・以前、つわりがひどくても、法律上の産前休業が取れない女性社員いることを知り、その時すぐに「妊娠中の特別休暇10日」を設けた。

・出産祝い金として一子20万円、二子30万円、三子50万円を支給している。

・女性社員は、全員「SP」(セールスパートナー)と呼ぶ。決して、事務員さんとかアシスタントとは呼ばない。現在40名中12名が女性で、うち8名が語学堪能。総合職と一般職の壁をなくし、給与も総合職のものに統一した。

・新卒の採用活動は、社長自ら中心にやっている。欲しい人材像を明確に伝えている。また、志ない人は採らないとはっきり言っているが、これは会社の為ではなく本人の為だ。

・リクナビでは、毎年150~200名の新卒がエントリーする。うち85%は面接に進むことを希望する。会社選びは「やりがい」を重視する学生が多い。

・最近は離職率が上がっている。新卒採用しても数年で辞めてしまう人がいる。これは、大学のキャリア教育で「自分の人生は1社では決まらない」といったことを教えていることが要因のようだ。

・評価は年2回で、全て加点主義。目標管理制度は大切。

・働き方改革とは、自社の最適化である。制度の前に風土が大切だ。


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