今なお、定年後の賃金を引き下げる企業は多い。
それに関する興味深い高裁判決(名古屋地裁令和2年10月28日判決)が出た。
事件の概要は、
・原告は自動車教習指導員(正社員)として勤務し、満60歳で定年、その後再雇用となった。
・定年後の業務内容も定年前と何ら変わらなかった。
・定年前は一度も配転はなく、定年後も配転のない契約だった。
・正社員時の基本給は18万円強、定年後は約8万円強(約45%)
・正社員時の賞与は約25~29万円、定年後は4~10万円強
判決の概要は、
・基本給は、定年退職後の60%を下回ることは不合理
・皆勤手当や精励手当の不支給は不合理
・家族手当の不支給は適法
・賞与は、定年時の基本給60%を基準とする算定を下回ることは不合理
この「60%」という基準(根拠)がどうしたって気になる。
名古屋地裁(一審)は「賃金センサス」との比較だった。思わず「何じゃそりゃ」と言ってしまったが、高裁では、原告の再雇用時の支給総額、高年齢雇用継続基本給付金、老齢厚生年金等を定年退職時の賃金と比較すると約92%強となり、報酬比例部分の受給開始以降はほぼ100%になる、といった一定の数字だった。
まぁこれも何だか後付けのような気がするし、給付金や老齢厚生年金は人によって金額が異なるので、やはり何かしっくりこない。まぁ地裁よりは多少ましな程度か。
いずれにせよ、60%を下回る賃金減額は違法という判決が出たのは事実。
60%という数字に目が行きやすいが、重要なのは、定年後再雇用という案直な理由だけで賃金を簡単に下げることはやはり危険だ、ということ。こっちに注目しよう。
これ、慣習なのか何も考えずにやってる企業、実に多い。もしそうするなら、無理やりでも職務内容や異動範囲、その他について差を設けることはマストだ。さもないと、最悪パート有期法9条(差別的取り扱いの禁止)の問題になったら目も当てられん。